昔々、とある村に地をかける天使と呼ばれたヒーラーがおりました。 






  

彼の名はジャネル。種族はジャイアント。

彼は重い病を抱えていて、生まれた時から戦いに参加することができず、タウンホールの小さな一室のベットの上で、いつも本を読んでいました。

ジャネルは戦いたく無いわけではありません。戦いの中で戦果を上げる事は、何よりの栄誉なのです。ですが、病は枷となり身体だけではなく、心まで蝕んでいきます。

そう、仕方ないのです。生れながらに自由の無い彼は諦めかけていました。










ある日、ふと目線を窓の外に当てると、見慣れない人影が、花壇の花たちに水やりをしていました。

どうやら、ヒーラーのようです。しかし、今はどの種族も日々の戦いのために訓練している時間です。

何故、彼女はその訓練に参加していないのか。一瞬、疑問に思いました。ですが、ジャネルは彼女の儚い後ろ姿に見惚れてしまいました。

それに勘付いたのか、そのヒーラーは振り向き、そして、ドタドタとこちらに近づいてきて、口を開きました。

「あんた、どうして訓練に参加してないのさ。あ、もしかして怪我してんの。うちが治してやるから、ちょっと待ってな。」

「いや、違…」

ジャネルは怪我をしているわけではないと言おうとしたのですが、もう彼女の姿は見えません。

数分後、またドタドタという音が大きくなって、一瞬聞こえなくなったかと思うと、乱暴に部屋のドアが開きました。

「どこが悪いの?見せてみて。」

「いや、怪我をしてるわけではないんです。ただ、病気を患ってて体を動かせないんです。そんな事より、ヒーラーさん。あなたは訓練に参加しなくてもいいんですか?」

ジャネルがそう言うと、ヒーラーは少し俯いて話し出しました。

「うちの名前はオミナって言うんだ。そう呼んでよ。それに参加してないわけじゃないの。する必要が無いだけ。あんたと同じね。」

オミナは昔、戦場で活躍していたのですが、敵の村の対空砲により片方の羽が無くなり、飛ぶことが出来なくなったらしいのです。

「だから、花の水やりとか邪魔な木の整備をしたりしてるわけ。村娘とやってることは変わんないよ。」

それからジャネルは彼女と他愛もない話を日が暮れるまでしてました。好きな本の話。村の外のこと。ちびっ子バーバリアンの口の悪さについてとか。

似た状況にいる二人はよく気が合いました。







それからジャネルの調子がいい日には、二人は村の中を散歩しました。

ほとんど外に出たことのないジャネルは村の中といえど、新鮮な空気に包まれ、初めて目にする物でワクワクしておりました。

そんな中、黄色い花がオミナの目に止まりました。

「この花ね、オミナエシって言うんだ。ほら、うちの名前はオミナだし似てるでしょ。綺麗だし、好きなんだ。オミナエシ。」

ジャネルはその花を見て、本を読んで蓄えた知識を思い出しました。

「この花、美しさとか、美人とか言う花言葉を持っているらしいですよ。あとは約束を守るって言う意味もあります。確かにオミナさんにピッタリな花ですね。」

「何言ってんの。バカ。」

こんな他愛のない会話でも、ジャネルの心は満たされていきました。病気のことも忘れ、まるで夢の中にいるような気にさえなっていました。









ある朝、胸に突き刺さるような痛みがジャネルを襲いました。そのまま意識を失ってしまったジャネルは村の医療室へ運ばれました。

ジャネルの横にはオミナが座っていました。その横には村の医者も。

「ジャネルさん、あなたの病気が酷くなってます。このままだと2週間が限度かと。」

ゆっくりと頷くジャネル。何も言わずに立ち上がり、スタスタと病室を後にするオミナ。

そして、ジャネルはある決心をしました。
「僕は、戦いで死ぬんだ。みんなの役に立って死ぬんだ。自分で納得できる生き方をするんだ。」

ジャネルはチーフに嘆願しました。チーフは「後悔しないようにするんだ。」と背中を押してくれました。








村はある噂で持ちきりです。いつも本を読んでた病気のジャネルが戦場にでると。その噂はオミナの耳まで届きました。

ジャネルを探して、オミナは走りました。ドタドタと。ドタドタと。
「ハァハァ、ジャネル!あの噂は本当なの。あんたの寿命はもう…。分かってるの!?」

「違うんです。だからこそなんです。僕は生まれてから誰の役にも立ってない。だから、最後くらいは戦いたいんです。

そして、もし僕が最後に戦士として死ぬ事ができたなら、約束してくれませんか? 」

静かにオミナは頷きます。

「オミナさん自身のやりたいことを、いや、やりたかったことをしてください。自分を見限らないで。諦めないで。」 

オミナは歯を食いしばって、大きな深呼吸をして、笑いました。
「わかった。約束する。」








それから2週間後、ジャネルのお葬式が始まりました。たくさんの白い百合が彼に送られました。その中で黄色いオミナエシの花が一際輝いていました。
  







昔々、とある村に地をかける天使と呼ばれたヒーラーがおりました。

彼女は、ヒーラーのくせにと馬鹿にされていました。ドタドタと走ることを馬鹿にされてました。

ですが、その足踏みは誰よりも力強く、勇ましい。

そんなヒーラーの心の中にこんな約束があった事はいまとなっては誰も知りません。

今日も村の隅のオミナエシは風に揺られながら強く生きています。